社会保険労務士法人ぶれす

2023.12.01

”宝塚”事件を社労士がみると

特定社会保険労務士の加藤です。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』https://eiga.com/movie/94687/

やたら評価が良く気になって観に行きましたが、今年観た邦画No.1!水木しげるイズム満載の、ある意味(ゴジラとは真逆の)戦争映画でした。PG12ですが、テーマもグロさもどちらかというとR15位の感じで、ガチで大人向けです。それにしても鬼太郎父と妻との再会は壮絶の一言。『マトリックス』のAIの作ったあのシステムが、慈悲に満ちたものに見えます。忙しい時期ですが、できればもう一度映画館で観たいです。

 

話は変わって、宝塚歌劇団の事件が話題になっています。先にお断りですが、決して宝塚の舞台や劇団員を批判するもので無く、あくまで社労士の立場で考えてみたいと思います。

 論点が3つあると考えます。

1.労働者性

宝塚歌劇団の劇団員(生徒というそうですが)は、音楽学校を卒業したばかりの人を研1と呼び、1年ごとに研2,研3…と呼称し研7までが新人扱いになります。ただ、研5までが労働者として雇用契約を結び、研6以降は業務委託契約になっています。

 ※あくまで推測ですが、社労士だと5年目までが労働者ということでピンとくるのは、雇い止めの問題です。有期雇用の場合、5年を経過した時点で無期転換しなければなりません。おそらく、毎年40名の卒業生が入団してくるので、5組(花・月・雪・星・宙)それぞれ8名を退団させなければならない、ということ?

 今回の“被害者”は研7だったので、業務委託契約です。でも報道をみる限り労働者なのではという問題があります。では、労働者性とはどういうものを言うのでしょうか?

労働基準法にいう労働者とは、使用者から使用され、労務に対して賃金を支払われる者とされています。

  • 使用
    • 仕事の依頼に対する諾否の自由があるか(拒否できるか)
    • 指揮命令関係の有無
    • 勤務時間や場所の拘束があるか
  • 賃金

労務に対して報酬が支払われているか、つまり報酬の労務対償性が問題で、労務の時間に応じて報酬が決まるのであれば、雇用関係に近いものになります。

  ”使用”を考えると、労働者性を否定するのは難しいのではないでしょうか。それと契約書の中に「劇団が決定した一切の方針に従わなければならない」「劇団以外で演技・歌唱などを行ってはならない」「容姿の管理に精進しなければならない」が入っているのは厳しいですね。はっきり言ってしまえば、

『偽装請負』ですね。

2.長時間労働

そもそも調査報告書で「~仮に労働時間であれば直近1ヶ月118時間以上の時間外労働があったことになる上、深夜時間帯にかかる長時間の活動により睡眠時間が十分に確保されない中~」の記載があり、記者会見でも“労働”などの発言がありました(何故弁護士を同席させなかったのか理解できない)。法律事務所も上記1.の労働者性で争っても勝てないと思ったのでしょうか。

https://kageki.hankyu.co.jp/news/20231114_1.html

 ただしこれは大きな問題で、もし労働者性を認め、長時間労働を認めるとなると、この被害者の方の問題だけではなくなります。生徒一覧を見ると研7までで250名くらいいるようです。その方々に未払残業払うのでしょうか。西宮労働基準監督署も入っていますね。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231123/k10014266721000.html

 ちなみに、生徒さんはいくらくらいもらっているのでしょう。何か手取り12万とか言う報道もありますが、さすがにそれではと思うので、仮に額面平均25万とします。(遺族側弁護士は250時間超としていますが、他の方の平均100時間とします)

  250,000円÷173時間20分=1,442.33

  1,442.33円×1.25×60時間=108,175

  1,442.33円×1.5×40時間=86,540円 合計194,715円/月

  194,715円×250名×36月(賃金時効3年)→175千万円

1、研2の方は賃金時効3年には当てはまりませんが、裏方の方々もいるのでざっくりこんな数字でイメージはわく気がします。宝塚事業の利益が2022年度68億円なので、普通に支給できる余力はあると思いますが。これ結局、絞り尽くして利益を得ている

 また、厚生労働省の基準で、100時間超であれば1ヶ月、80時間超だと2ヶ月ないし6ヶ月にわたると過労死との関連性が強いと評価しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053725.html

3.パワーハラスメント

パワハラの定義も厚生労働省が基準を設けています。ここにパンフレットがあります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

今回の報道がどうなのか、という問題はありますが、現代社会ですから普通に録音されているのかなと思います。詳細については、そのあたりを待ちたい、というところです。一番センシティブなところなので論評は避けます。

 今回の問題、やっぱり宝塚歌劇団の運営の初期対応がすべてだったと思います。ここまで公になると、親が許さず音校に入学してくる子がいなくなるかもしれません。

リスクマネジメントの大切さを痛感しています。

 


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