社会保険労務士の山下です。
それは突然・・・・・
ある日 会社に一本の電話が入ります。
「退職代行の〇〇です。御社の従業員のAさんが退職の意向を示しています。
退職日は本日から2週間後。本日から有給休暇消化を希望されているため、今後出勤する予定はないとのことです。
詳細は後程メールいたしますので、ご対応お願いいたします」
昨日は「お先に失礼します!」と笑顔で退勤したAさん。
いままで直接 辞めたいということや、会社に対する不満を口にすることはありませんでした。
連絡を受けた事業主さんは理由を考えてみますが、ハラスメントや長時間残業の実態もなく本当に思い当たる節がありません。
他の同僚にも聞いてみますが、「Aさんが辞めたがっているなんて、聞いたことありません。」
これは数年前、私が個人で社労士をしていたときに本当にあった怖~い話です。
近年増え続ける退職代行業者
ここ数年、こういった退職代行に関するご連絡がポツポツとあります。
調べる限り、日本でこういった退職代行サービスができたのが2017年ごろ。
その後あっという間に広がりを見せ、今や代行業者は100社を超えるそうです。
退職代行業者には大きく分けて2つあります。
①弁護士が運営している代行業者(または提携している代行業者)
②弁護士が関わっていない代行業者
どちらも退職の意向を「従業員に代わって」連絡してくるには変わりありませんが、
①は退職日や退職の条件についての交渉ができるのに対し、
②はあくまで伝達のみで、交渉事はできません(非弁行為に該当するため)。
突然 退職代行から連絡を受けた事業主さんや残された同僚は、まずは驚き、
「退職代行を使うなんて、あり得ない!!」と憤りを感じられる方も多いでしょう。
しかし現実は、退職代行業者は増えるばかり。確実にニーズがあるということなのでしょう。
とある代行業者のアンケート調査では、「将来退職代行業者を使おうと思っている」「抵抗はあるが、場合によっては使う」という方が3人に1人の割合でいたそうで、この流れは止められないと感じています。
退職代行を使うケースと、その胸の内とは・・・
もともとは「辞めたくても辞めさせてくれない」「パワハラが怖くて言い出せない」
「退職の意向を伝えたら酷い扱いを受けた」・・・等々、
「ブラック企業を相手にして心を病むくらいなら、退職代行を使って逃げてほしい」という思いから始まったサービスのようですが、
個人的には、いまやこういった”ブラック企業” とは言えないケースでも、カジュアルに使う方が増えているという印象です。
なぜ、「ブラック企業」とも言えない環境で退職代行を使うのか。
ここからは私の経験則と想像の域を出ませんが、二つの可能性が考えられます。
①会社のルールが「自己都合の場合、3か月前(ないし6か月)に申出」というルールになっていて、
そんなに待てない。早く辞めたいが、ルール外のことは認められないのではないか、という不安。
②「辞める」と言った後の会社の反応、同僚の反応が怖い。言い出せない。
退職に関する労使の”誤解”
就業規則で「退職の場合は〇〇日前に申し出ること」と定めている会社も多いと思います。
ただ、これはあくまで「会社からのお願い」に過ぎません。たとえば、3か月前に申し出、と就業規則に記載していても
民法では以下のように定められています。
”民法627条(第1項) 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。” |
つまり従業員からの申し出により、2週間後の退職が法的には可能なのです。
「就業規則に定めてあるのは会社からのお願いであり、難しい場合は2週間後の退職が可能なのだ」ということが
もっと認識として広まれば、「退職代行」を使う方はひょっとして減るのではないでしょうか。
※2週間後 急に辞める人が増えたら困ってしまうというのはもちろんで、それを勧めているわけではありません。
それをわかっていても、やはり言いにくい。言い出しにくいから代行業者を使う、という方もいるでしょう。
そんなとき数万円で使える代行業者がたくさんあったら、そちらに流れるのはもう止められないのかもしれません。
もし代行業者から突然連絡があったら
代行業者から連絡があったら、驚きと憤り、大変なショックを受けることと思います。
ただ、残された他の従業員さんが、会社の対応の仕方を見ています。
ぜひそんなときは私たちにご相談ください。
今後なるべく退職代行を使われないようにする方法も、一緒に考えていけたらと思います。
※個人的には、労働環境的にも本当に逃げるべきときは心を病むより退職代行を使っていいと思いますし、退職代行サービスを一概に否定する趣旨はございません。
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