社会保険労務士法人ぶれす

2024.09.27

「最低賃金」と「扶養」の切っても切れない関係

こんにちは。社会保険労務士の山下です。

ぐっと気温も下がり、やっと秋らしくなってきた今週。X(twitter)で「今年も残り100日!」というポストを見て思わず「えぇぇ!」と言ってしまったところ、隣にいた子供に「どうせ歳をとると、一年が10日くらいに感じるとか言うんでしょ?」と言われて絶句・・・。

「ジャネーの法則」・・・生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢に反比例する。

(さすがに10日はない!ですが、元旦から3か月くらいしか経っていない体感です・・・)

さて、先日 延島先生のブログでも取り上げられていますが、2024年10月より全国で最低賃金が改定されます。+50円というところが多く、経営に与える影響も大きいと思いますが、もう一つ、「扶養内で働く従業員さん」への影響もあります。年末が近づいてくると、毎年「今年はこれ以上 働くと扶養から抜けてしまうのですが・・・!」といったご質問も増えてきます。

「扶養内で働く」には、”税扶養”と”社会保険の扶養”がありますが、多くの方が気にされるのが「社会保険の扶養内」=いわゆる130万円の壁だと思います。

最低賃金の改定が発表されてから、

・「時給が上がると扶養を出てしまいそうですが、130万円というのは、今年の1月から12月でカウントすればいいのですか?」

・「時給が上がって130万円を超えても、2年間は”年収の壁対策パッケージ”を使って扶養内でいられるのですよね?」

 

といったご質問が増えてきていますので、本日はこちらについて解説したいと思います。

 

社会保険の扶養の条件「130万円未満」は何月から何月の累計?

→収入要件については健康保険組合によって異なりますが、多くの場合「見込み収入」で判断します。

 

所得税・住民税の扶養の判定は、その年の1月~12月に支払われた実績累計で判断するのに対し、社会保険の扶養は、社会保険に加入しているご家族がどの健康保険組合(協会)か、で異なってきます。

全国健康保険協会(協会けんぽ)や、多くの健康保険組合での収入要件「130万未満」は、実績でなく”向こう1年間の見込収入”で判断します。あくまで「見込み」なので、たとえば昨日まで1年間ずっと月収20万円で働いていた方が仕事を退職して、今日から世帯主の家族(夫)の社会保険の扶養に入る、ということも可能なのです。

見込みが130万円ということは12か月で割ると108,333円。協会けんぽの場合、1か月の収入見込みがこの金額未満であれば、社会保険の扶養内でいられます(ほかにも配偶者の見込み年収や国内居住など諸条件はありますが)。

東京都の場合、10月からの最低賃金は1163円ですので、最低賃金でパートすると仮定して、

108,000円÷1163円=月間92.86時間までの労働が可能。

この見込収入には通勤手当や各種手当も含めますのでご注意ください。通勤手当を支給しているとなると、働ける日数はもっと少なくなるでしょう。

「扶養に入ってから、どの12カ月をとっても130万円未満」「9月から翌8月までの収入が130万円未満」「2年間連続して130万円を超えていないこと」という収入条件がある健康保険組合もありますので、従業員さんから事業主さんへ質問があった場合、まずは「ご家族が所属している健康保険組合の扶養認定基準を調べてください」とお答えするのがベストです。

 

時給が上がって130万円を超えても、2年間は”年収の壁支援強化パッケージ”を使って扶養内でいられるのですよね?

→ 年収の壁対策パッケージは、あくまで「一時的に収入が増える場合」なので、対象となりません。

たとえば、時給1080円×月100時間の方が時給1200円に昇給したとします。月の100時間はそのままだと月12万円の「見込み収入」になり、その時点で扶養から抜けることになります。

「年収の壁支援強化パッケージ」はあくまで、見込みの収入が月108,000未満の雇用契約を結んでいて、残業や人員不足解消のための一時的な収入増加によって年収130万円を超えたときに、事業主が「一時的であること」を証明すれば扶養を継続するという仕組みです。

じゃあ「一時的」って具体的には何か月までが許容範囲ですか?と聞きたくなりますが、明確な基準はなく最終的には健康保険組合(協会)の判断になります。(少なくとも1年間ずっとだと「一時的」とは言えないという判断が下されるのでは・・・と思います。)

 

 

扶養を抜ける≠いまのパート先で社会保険加入できる

 

もうひとつ、間違いやすいのが、「見込みが11万円で夫の扶養を抜けてしまうので、パート先で社会保険に加入しようと思います」というものです。

もし東京都であれば、最低賃金の水準から言って、この方が社会保険に加入することは難しいでしょう。なぜなら、社会保険の加入には「週所定労働時間がフルタイム社員の3/4以上ある」ということが必要だからです。

※フルタイムの社員が週40時間の会社だと、週30時間の所定労働時間が必要になります。

扶養を抜けてしまう、だけどパート先でも社会保険に加入できない。となると、国民健康保険+国民年金 に加入する、ということが必要です。

ありがたいことに、パート先は時給をあげてくれた。このままでは扶養は抜けてしまうけど子育てや家族の介護などで週30時間は勤務できない・・ 国民健康保険+国民年金に加入すると、勤務時間を多少増やしたとしても手取りが今以上に少なくなる・・・

このジレンマ、実は私自身も体験したことがあります。 一時的に手取りが減っても、長期的には勤務時間・収入を増やしていく覚悟をして「えい!」と扶養を抜けられるかどうかは、そのときの状況、環境や自身のキャリアの考え方などにより、なにが正解なのかは第三者が言及できるものでない、と個人的には思います(もちろん、第3号扶養への風当たりの強さは承知していますが・・)。 

 

もし、「扶養を抜けてしまうので、思い切って労働時間を増やして自分で社会保険に加入したい」という従業員さんがいて、会社としても「ぜひもっと働いていいただきたい」ということであれば、キャリアアップ助成金~社会保険適用時処遇改善コース~が活用できる可能性がありますので、ぜひ早めにご相談ください。

 

扶養については、過去の村田先生のブログ「【扶養内で働く】の扶養内とは?」もぜひご覧ください!

 


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